ライギョ

訪問者

窓の直ぐ外は隣のビルの壁でも陽の光は入るものなんだなーーー


そんな事を思いながら俺はビジネスホテルのベッド上で目覚めた。


久しぶりの帰省。


けれどこの部屋には何一つ、ホームを漂わせるものはない。


て言うか、結局昨日は実家に帰れなかったし。


ドレッサーに投げてあった腕時計を見るとチェックアウトまで後、一時間と少し。


昨夜はあまり眠れなかった。


結局、明け方近くまで寝返りを繰り返していた気がする。


兎に角、目を覚まそうと軽くシャワーを済ませた。


それから身支度を整え、鞄を手に持つと部屋を一通り見回してからドア脇にあるルームキーを手に取る。


部屋が一瞬で暗くなる。


パタンとドアが閉まる音を後ろに聞きながら俺はエレベーターホールへと向かった。


腕時計を見るとまもなく午前10時。


チェックアウトを済ませ、最寄り駅に向かう途中で目についたコーヒーショップに入る。


別に酒が残ってる訳でも無いけどブラック珈琲のみを注文した。


頭を兎に角、落ち着かせたかった。


土曜日の朝という事もあり、店内は比較的空いている。


平日ならきっとサラリーマンの姿で賑わっているのだろう。


外に面した窓側のカウンター席に着く。


着席と同時にカウンターに無造作に置いたスマホが振動する。


画面に表示された名前を見てスツールからずり落ちそうになった。


だってーーー







「も、もしもし？」


声が上擦る俺とは違って、聞こえてきたのはしっとりとした心地の良い声。


「私、千晶だけど。ごめんね、突然に電話しちゃって。」


俺はより早く頭をスッキリさせようと千晶さんに音が漏れないようそっとブラック珈琲を口にした。






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