ライギョ
「へぇ……有名なんだ、この店。」


「えっ、ああまぁ。」


お好み焼きが食べたいと言う千晶さんの願いを叶えるべくまた大阪駅へと戻ってきた。


中2までの記憶に残る店があるからだ。


それに明日、また新幹線で帰るならなるべくこの辺りで泊まる所も探せばいいだろう。


と、言うのが俺の考えだ。


その店は大阪駅から少し歩いた所にある小さな飲み屋街に入っている。


昔、家族で何回か来たことがあって、お好み焼きと言えばこの店しか思い浮かばなかった。


ただ結構な人気店で並ばなければいけなくて、到着した時も既に行列が出来ていた。


「なんか……すいません。」


「えっ、なんかって?」


「待たなきゃならなくって。」


「全然、構わないわよ。だって有名なんでしょ。尚更、いいじゃない。中々、来る事ないんだもん。」


ーーーー確かに俺ともう来ることなんかないですよね。


と、自虐的な俺が心の中で呟く。


ただ、こうして少しでも長く千晶さんと時間を共に出来ていると言う事実が俺を勇気付けるのだけど。


「ところで、もう実家には帰ったの?」


「えっ、いや、まだ……です。何でですか?」


「だって……ほら。」


と、俺の手荷物に視線を向ける。


確かに俺は昨日から少し大きめの鞄を持ったままだ。


「どこか………泊まる所でもあったの?例えばーーー昔の彼女の所とか?」


と、余裕の笑顔で聞いてくる千晶さんを見るとこの人は俺がどこに泊まろうとも何ともないんだろうなって思う。


「はっはっ、俺、この街にいたの中2までですよ。泊まるどころかそんな彼女すらいませんよ。」


「そっか………そうだよね。」


千晶さん、そんな顔するのズルいですよ。







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