ライギョ
Age14⇚

幻覚

「じゃあ、俺らはあっちの駐車場に車止めて中で待機してるわ。」


山中が伏し目がちにそう言いいながら


「本当にいいんですか?」


と千晶さんに視線を向ける。


「ああ、気にしないで。私の過去の産物が役に立つ日が来るなんて…嬉しいくらいよ。」


千晶さんは明るく応える。


「そう言ってもらえるとありがたいですけど。なんか…すいません。巻き込む形になってしまって。」


山中は千晶さんに向けて深々と頭を下げた。


俺達は今朝、早くに大阪を出て隣県にやって来ていた。


電車で行く事も考えたけれど山中が車を出すと言うのでそれに従った。


渋滞に巻き込まれる事もなく約束の時間よりかなり早めに目的地である白い砂浜と温泉で有名なこの町に到着した。


この町に例の中学生は住んでいる。


もしかしたら今日会うことで俺達が抱え続けていたモヤモヤが全て無くなるかもしれない。


不安と期待とが入り混じる。


海を気持ち良さげに眺める千晶さんの方をそっと見る。


結局、こちらが何人もいたのでは相手が萎縮するだろうと、例え実際は子供じゃなかったとしても。


それで竹脇としての俺とサポート役を買って出た千晶さんとで会う事にした。


もう一人、女性を連れて行くと言うのは相手も了承済だ。


にしても…


「こんな素敵な景色を前にそんな大あくびしないの。」


いや、千晶さんが昨夜、眠らせてくれなかったじゃないですか…と言いそうになり山中と小夜子がまだこの場にいる事を思い出す。


それに、眠らせて貰えなかったと言えば、聞こえは良いかもしれないが、その実態は千晶さんによるラビリんちゃん知識の熱烈指導のせいだ。


リラに通い続けて随分になるけれど、千晶さんがあんなにもにも熱い人だとは思わなかった。


まぁ、その熱烈指導のお陰でそれなりに頭には入ったと思うけど。


それから、こうして千晶さんを巻き込む形になった以上、ちゃんと今回の事を話さなきゃならないと思った俺は昨夜、全てを千晶さんに打ち明けた。


城の堀のライギョを釣りに行った夜の出来事を。










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