ライギョ
「その事を知って、俺、安田と仲良うなりたいって思ってん。せやからライギョ釣りに誘った…。安田が釣りしてるの知ってたから。」


「だから、あの時…」


安田を誘うなんてって驚いた記憶がある。


あの安田をって。


「結局、そのライギョ釣りであんな事になった。俺の中途半端なお節介心が安田をあんな目に合わせた。もしかしたらあんな事になってたかったら安田は今頃、お前とーーー小夜子と付き合ってたかもしれへん…」


最後の方は消え入りそうな声だった。


山中は手をぎゅっと握りしめ一点を見つめたまま微かに聞こえる声で言った。


「俺が落ちれば良かったんや…」


って。










「ねぇ、もしかして時々、山中くんが違う人みたいになるのってその事が影響してるの?」


小夜子がこの前、俺を呼び出し言ってきた話を思い出す。


あの時、既に小夜子は気付きつつあった。


山中が安田として生きていこうとしているんじゃないかって。


俺はそんな事あるわけ無いって思ったけど…


山中と小夜子と会った夜に気付いた違和感。


本来右利きだった山中が左手を器用に使っていたこと…


「ねぇ、ハッキリ言うてよ。山中くんは安田くんの代わりに私と付き合ってるの?安田くんができなかった事への罪滅ぼしで私とーー」


後はもう言葉になっていなかった。


ただ、千晶さんが小夜子をしっかりと支えるように寄り添ってくれている事がありがたかった。


この人がいなきゃ、誰も小夜子をこんな風に抱きしめてはやれないだろう。




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