ライギョ
「すまん…。俺、安田の事があってからお節介とかもう、止めようって思った。俺が関わるとロクな事がない。それに自分自身に対しても考え方が変わった。何をやるにしても安田がもしおったらって。あいつはもうおらんのに俺ばかりが楽しんでええんやろかって。俺に生きる資格はあるんかって。俺が生きる意味はどこにあるんやって…。」


「山中…」


俺は山中の小刻みに震える肩にそっと手を伸ばそうとした。


その時、


「バカみたい。」


千晶さんだった。


「バカみたいって?」


俺が問い掛けると千晶さんは


「あのさ、キミがどれだけ安田くんって子になって生きようとしてもキミはキミなんだよ。何をやっても何を思っても何を感じてもそれは全てキミが得たもの。人の代わりなんて出来ないのよ。ましてや人を好きになる事なんて…駄目だよ。」


千晶さんは山中を責めるでもなくただ、諭すように続けた。


「ねぇ、キミの心は今、どこにある?キミは小夜子ちゃんの事、どう思ってるの?なんとも思わない?例えばーーー彼が小夜子ちゃんとくっついたとしても。」


と、俺を指差す千晶さん。


「えっ、俺?俺、小夜子とは別にーーー」


「嫌や。それはアカン。お前にだけはーーー絶対、譲れん。」


「はぁ?なにそれ?ちょっと勝手すぎるんとちゃう?安田くんの代わりにとか言ってた癖になんなんそれ?」


捲し立てる小夜子に山中は子供が母親に怒られたかのようにがっくりきながらも答えた。


「安田が小夜子を見てた時、もう一つ気づいたんや。安田が見る小夜子の視線の先にはこいつがおった。小夜子はお前を見てた。」


「えっ、俺?」


急に話の矛先が自分に降ってきてつい狼狽える。


「動揺するってことはやましい事でもあるんか?例えば二人で会ったとか…」


「ちょ、山中、何言ってんの?俺と小夜子が二人でなんてーーー」



会った。


この前の晩に会ったっけ?









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