代償 2nd mean
「コーヒー、淹れてくれないか」
「うん、………分かった」
コーヒーカップに粉をいれ、湯を注ぐ。
上時は黙って座って、

「………?」
いるわけなく。
視界から消えた。
「上時?」
ベランダにいた。
柵に肘を突いて。
頬杖突いて。
………死んで、ないね、うん。
本当に怖いから、何も言わないでベランダとか出ないでよ。
「………あー」
よくもない眺めだな。
………そうだね。
よくもない眺めだね。
「………ここに来た時、怖くてベランダに出られなかった」

前橋組の総長が高所恐怖症なんてダサいな。
いや、高所恐怖症じゃなくて、驚いていたんだ。
それまで、最下層のドブみたいなとこにいたからさ。
………施設は、何にも覚えていない。
ただただ、吐き気がしてた。
初めて族員を見放した時みたいな。
どうなったか───奴等。
恨むよな、こんな───。

「………文香、俺はどう見える?」
私を見ないで、私に問う上時は、
「───最短で飛び降りたって、綺麗には死ねないな」
半身を柵から乗り出して、遠い地上を見下ろした。
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