代償 2nd mean
「久し振りって、分からないか」
氷さんが、慶佑の前にしゃがむ。
「あ、抜糸したんだ。何か雰囲気違うと思ったら」
「───誰?」
「氷北組の、一ノ倉だよ」
「一ノ倉?」
眉間に皺を刻んで。
「………誰だったかな」
やっぱり。
「氷北組とは?」
「えー、そこまで忘れたか~」
頭を抱えて。
仕方ないって。
本当、自分だって忘れているんだから。
名前すら、記憶にないんだよ?

「上時総長、大丈夫?」
蓮華さんが、心配そうに聞く。
「うーん………。記憶喪失で、全く何も覚えてなくて」
「………あの、決闘の後から?」
「ずっと眠ってて、起きたら、記憶喪失で」
「………そっか」
紅茶を渡す。
一口啜った。

「凜音ぇ~」
ダルダルに甘ったるい声。
こんなの、1人いれば、充分だよ。
「煩い!」
「ティッシュ~!クリームついたぁ!」
………。
ごめん。
私、引くよ。
蓮華さんは笑ってるし。
氷族長は、
「バカップルは、余所でしてくれよ」
苦笑混じりに言う。

これ、さっきまで拳銃握った人に見えますか?
否、見えん。
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