桃の花を溺れるほどに愛してる
 この道は、幸いにも周りにはだれもいなくて、私と春人の息を切らした吐息だけが聴こえる。

 「話って何?」……そう聴く余裕は、今の私にはなかった。

 春人が先程の女性とベッタリとくっついている光景が、何度も頭の中をフラッシュバックして、……なぜだろう、泣きそうになる。言葉が失われていく。


「桃花さん……あの、」


 けれど、春人の声を聴くと、自然と言葉が溢れていく。……抵抗のような逃げのような、そんなわがままばかりだけれど。


「聴きたくないっ!」

「聴いてください……っ!」

「やだ!やだ、やだ、やだぁっ!」


 春人は私の腕を力強く掴んだままで、逃げられなくて、そして私は、子供のように泣きじゃくる。

 第3者から見れば、とても滑稽で、笑える場面なんだろうな。

 ……それにしても、どうして私は、春人の言葉を聴きたくないのだろう?

 アレはだれがどう見たって浮気っていうヤツで……このままだと、「僕はあの人が好きです、別れてください」って、すんなりと別れられるかもしれないのに。

 その発言を聴きたくないと思うのは、聴きたくないのは、どうしてだろう?
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