桃の花を溺れるほどに愛してる
 ――家に帰ると、お母さんが「おかえりなさい!」って微笑んだ。

 私は「ただいまー」と、お母さんには心配をかけないように、“特に何もなかったよ”と表情を作って2階へとあがり、自室に入った。

 鞄をその辺の床に放り投げた私は、ベッドの上に俯せで沈み込む。

 ……心にぽっかりと穴が空いたようだった。

 何度も何度もさっきの光景が頭の中を過ぎっては消えていく。


「……はは」


 何、泣いてんだろ、私。バカだなぁ……これでよかったんじゃないか。

 このあと、春人から別れの連絡がきて、題して“春人からフラせよう作成!”が成功して……ストーカー野郎とはおさらば!いつも通りの日常がスタート!……な、はずじゃん。

 喜ぶべきであって、泣くべきことではない……はずじゃん?じゃあ、もっと喜ばなきゃいけないのに……。いけない、のに……。



 ――どうして、私の涙は、とまってはくれないのだろうか?



 えっ、なに?春人が浮気していてショックだったわけ?私。そんなわけないじゃーん!男なんてみんな、そんなもん。浮気なんて日常茶飯事みたいなもんでしょ?だから、これが当たり前っていうか。私がショックを受ける理由が分からないっていうかー……。

 ……仮に。仮にだよ?浮気していてショックだったとして、それは……どうして?

 ああ、もう!頭の中がぐちゃぐちゃだ!何も考えたくないっ。全部全部、春人のせいなんだから!春人なんか……だいっきらいっ!なんだから……っ!!!
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