桃の花を溺れるほどに愛してる
【春人 Side.】


 ――「春人なんて……!春人なんてぇっ!!!」

 ――「きらいっ!だいっきらいっ!!!」


 桃花さんの言葉が何度も何度も何度も何度も何度も頭の中でリピートしていて、消えてくれない。


「はると?」


 僕の自宅につくや否や、夏美(なつみ)さんはまるで我が家のようにコップに水を汲んで飲み、リビングでくつろぎだした。

 僕もリビングのソファーに腰掛けるものの……やはり、先程の桃花さんのことが頭から離れない。

 夏美さんは酔っていることもあって、水を飲んだらそのまま眠ってくれるものだと思っていたのだけど……僕の様子がおかしいことに気が付いたのか、こちらを向いた。


「……さっきの子のことでしょ?」

「……はい」

「はぁ……やっぱりね」

「……ごめん、夏美さん。今日のところはもう、帰ってくれませんか。僕、1人になりたいので……」

「ええ、そうするわ」


 玄関の方に移動し、靴を履いた夏美さんは、家を出る前に言った。


「ちゃんと誤解、解きなさいよね。私達、血の繋がっているただの姉弟なんだから」


 バタン。……玄関の扉が閉まり、夏美さんが帰っていく音が聴こえた。


「……そのつもりです、夏美さん」


 僕の小さな呟きは、広い部屋に吸い込まれるようにして消えていった。
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