桃の花を溺れるほどに愛してる
 最後まですごく真剣に聞いてくれていた榊先輩は、私がすべてを話し終えると、そっと口を開いた。


「なんだ、それ……」

「あっ、変なことを聞かせちゃってごめんなさい!こんなの、榊先輩に話したってどうしようもな……」

「頭おかしいだろ、その人」

「……え」


 いつも温厚でにこやかと微笑む榊先輩の口から、「頭おかしいだろ」……そんな言葉が出るとは思わなくて、私は硬直した。

 でも、王子みたいな榊先輩もちゃんと人間だったんだなぁ……と、どこかで安心しているのも事実で、なんとも言えなくなる。


「自分から迫って無理矢理付き合わせた挙げ句、桃花ちゃんから別れを切り出したら自殺?しかも、自分はのんきに浮気?最低だな」

「そ……れは……」


 なぜだろう……?だれかが春人のことを悪く言っているのを聞くと、胸の辺りが苦しくなる。

 自分から春人との現状を話しておきながらアレだけど、春人の悪口は……聞いていたく、ない。

 確かに、榊先輩の言っていることは正しいのかもしれない。けど、心の底から春人のことを最低だとは思えないのは……どうしてなのだろう。

 私が……春人が心優しい人だと、心の底から私を好いてくれているからだと、気付いているから?本当は知っているから?

 だから……だからこそ、春人が見知らぬ綺麗な女性といるのを見て、涙がとまらなくなったのかな……?
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