桃の花を溺れるほどに愛してる
「そんな人、放っておきなよ。どこかで勝手に野垂れ死んでいようが、だからって桃花ちゃんが気に病む必要はない。その人の自業自得っていうやつだ」

「で、も……」

「……桃花ちゃんは優しいんだね。……まぁ、だからこそ、俺は桃花ちゃんに惹かれたのかもしれないけど」

「やっ、優しいなんてそんな……」


 私は、ただ私のせいでだれかが死ぬのが嫌なだけ。だから、優しいっていうのとは少し違うような気も……。


「謙遜なんてしなくていい。むしろ、胸を張っていいんだ。そんな心優しい桃花ちゃんには酷な話かもしれないけど、時には心を鬼にすることだって必要だよ」


 心を、鬼に……。


「……それでも、桃花ちゃんから別れを切り出して、勝手に野垂れ死なれるのが嫌だっていうなら、じゃあ、別れなければいい」

「え?」

「いずれ自然消滅して野垂れ死ぬのが目に見えている。だから――」


 次の瞬間、榊先輩は普通じゃあ考えられない一言を発した。


「――今から、俺と付き合おう?」


 思考が、停止する。

 まさか、榊先輩がそんなふうに考えていて、そんなことを私に提案してくるとは思わなかった。
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