桃の花を溺れるほどに愛してる
「えっ……?」

「桃花ちゃんは違うの?」

「わっ、私は……」


 本当に。ただ、本当に。友達として榊先輩と遊びに出掛けていただけ……。

 確かに、榊先輩の言動にときめいたり、楽しい時間を過ごしたと思う。でも……。

 でも、それ以上の感情があるのか。あるいは、それ以上の感情が芽生えたのかと問われたら――ない。


「……ごめんなさい……」

「……。桃花ちゃんが謝る必要はないよ。桃花ちゃんに振り向いてもらえるように、俺はがんばるから」

「……」


 そんなに必死になるぐらい、私のことを想ってくれているの……?

 それなのに私は、榊先輩を特別な感情では見れていない……。なんだか、逆に榊先輩に申し訳なくなってきたよ……。

 水族館から出た私達は、近くの公園の椅子に腰掛けていた。

 榊先輩のことを考えながら、しょんぼりと肩を落としていると、目の前に高級そうな1台の車が停まった。


「……?」


 ガチャッ、と車の扉が開く。

 中から出て来たのは――あの日、あの時、春人と寄り添うように歩いていた綺麗な女性だった……。


「え……?」


 思わず言葉が口をついて出る。

 どうして春人と寄り添うようにいた女性が、今、ここにいるの?私の目の前に現れたの……?


「あなた。神代桃花さん、よね?」

「はい。そうですけど……」


 隣に座っている榊先輩も、不思議そうな表情を浮かべている。
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