桃の花を溺れるほどに愛してる
「ふーん?」


 目を細めた目の前の女性は、意味ありげに隣にいる榊先輩に目を向ける。

 そして、しばらくして再び私に目を向けたかと思うと……。


「あなたって、恋人がいながら平気で浮気しちゃうような人なんだ?」

「なっ?!」

「どうして春人はあなたみたいな子がいいのかしらねぇ?私には理解が出来ないわ」

「あのっ、嫌味を言いに来たのなら帰ってもらえますか!榊先輩とはただの友達ですし、だいたい、浮気をしたのは私じゃなくて、彼の方なんですがっ!」


 刹那、目の前の女性は目を見開いて驚いたかと思えば、「やっぱり」と溜め息を吐いた。


「春人のやつ、やっぱりちゃんと誤解を解いていなかったのね……」

「え?誤解って……?」

「詳しいことはあとで話すわ。とにかく、今すぐに車に乗って」

「え」

「春人に会わせてあげる」


 よく分からないけど、この女性の焦ったような様子を見ていると、ここはついていった方がいいのかもしれない……。


「あっ、そうだ。あなたは……」

「俺ならひとりで帰ります。なんだか急いでいるみたいですし、俺には構わずに行ってください」


 榊先輩はまたにこりと微笑んだかと思うと、私の背中を押した。


「行ってあげて?」

「榊先輩……。あの、すみません、行ってきます。今日は楽しかったです!」


 榊先輩に別れを告げた私は、見知らぬ綺麗な女性の車に乗り込んだ。

 ドアをしめ、シートベルトをしめて間もなく、車は発進した。
< 147 / 347 >

この作品をシェア

pagetop