桃の花を溺れるほどに愛してる
 天霧総合病院が職場の彼。彼に会えると連れて来られた天霧総合病院……。

 職場で働いている彼に会えるものだと、一見、私と同じ立場になった人達は思うことだろう。


「えっ……?」


 ――誰が想像できただろうか?


「はる、と……?」


 ――本来、みんなの傷を治す医者の立場である彼が……。


「嘘でしょ……?!」


 ――治してもらう側の、患者の立場になっているなんて……。


 春人はたくさんの管を身体に通しながら、ベッドの上で目をつむりながら横たわっていた。

 しばらく見ないうちに、ずいぶんとやせ細っているように思える。


「春人……?」


 一歩、また一歩と、ゆっくりと春人の眠るベッドに向かって歩み寄っていく。

 春人と目線を合わせるようにその場にしゃがみ込み、ベッドの上に放り出されている右腕に触れた。

 ……思っていたより、冷たい。

 どうして?どうして春人は、ベッドの上で横たわっているの?持病でもあったというの?でも、そんな話、今まで聞いたことがない……!


「……自殺未遂よ」

「……えっ」


 いつの間にか背後に立っていた夏美さんが、ぽつり、そう言った。


「彼、手首を切っていて、お風呂場で意識がないところを私が発見したの」

「そんな……」

「嫌な予感がしたのよね。昔から人一倍病みやすいというか……何かあればすぐに自分のせいだと思い込み、みんなのために死に急ごうとする。自分が死ねばみんなは喜ぶだろう、って」

「……」
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