桃の花を溺れるほどに愛してる
 天霧さん……アンタ、自分で何を言っているのか分かっているの?


「そんなこと、できるわけ……」


 発した自分の声は震えていた。……なんていうか、情けない。


「大丈夫です。僕の心臓部に刃を当て、グッと力を入れたら一発ですよ。なんなら、手伝いますし」


 そう言う天霧さんの瞳は真剣そのもので。その言葉ややろうとしている行動なんかが本気なのだと理解する。


「そういうことじゃなくて……!こんなっ、殺人だなんて、できるわけがないって言っているの!」

「……桃花さんは、優しいですね」


 天霧さんはどこか嬉しそうに微笑んだ。

 ――って、やっ、優しいとかそういう問題じゃないでしょ!これ!


「そんな心優しい桃花さんにこんなことをお願いするのは……罪なのかもしれませんね。申し訳ございません、憶測でした。僕はもう、桃花さんの前には現れません。ヒトリ、消えます」


 掴んでいた私の手を離した天霧さんは、スッと私に背を向けた。

 そしてそのままどこかへ歩き出そうとする。
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