桃の花を溺れるほどに愛してる
 必死で自転車をこいでいると、前方から男女の話し声が聴こえてきた。頭を上にあげると、桃花さんと見知らぬ金髪の男が会話しているのが見える。

 ……金髪の男は、興味本位で桃花さんの自殺未遂をからかっているのだろうか?なんにせよ、許せることではない。

 僕は自転車をそこら辺に投げ捨て、近くにあった大きめの石を金髪の男に向かって――投げた。

 「待て!」――そう言って桃花さんの前にはだかるべきなんだろうけれど、今の僕には、そんなことをしたら僕の顔を見た瞬間に記憶が戻るんじゃないかという不安が、頭を過ぎったんだ。

 だから、遠くから石を投げ、金髪の男をこちらに引き寄せた。


「ぁあっ?!」


 金髪の男は、ものすごく怖い鬼のような顔付きで僕の方を振り返ったと思えば、拳を握りながら走ってきた。

 ……どう考えても、ひょろひょろな僕があの金髪の男に勝てるワケがない。相手はケンカ慣れをしていそうだし、拳銃でも持たない限り、負けそうな勢いだ。

 このままここでやられるのは格好悪いから、だれもいないところまでおびき寄せよう……っ!

 僕は今来た道を走り出し、なるべく人のいないところまで走った。

 ガシッ。

 いつの間にか僕の真後ろにまで追い付いていた金髪の男は、僕の腕を掴んだかと思えば――そのままグルンと地面に向かってたたき付けた。
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