桃の花を溺れるほどに愛してる
「あっ、あの……?」

「ん?……ああ、こんにちは。私は天霧冬斗(ふゆと)。お察しの通り、ここの院長でもあり、春人の父親だ」

「かっ、神代桃花ですっ。あの、先程春人がっ……あっ、春人さんがっ」


 いくら春人が1度目覚めたからって、テンパりすぎでしょ……私。


「……ふむ、ただ眠っているだけのようだな。しばらくすればまた目を覚ますだろう」


 冬斗さんは春人の状態を調べ、そう言った。

 よかった……。今はただ、眠っているだけなんだ。大事にならなくて、本当によかった……っ!


「それと、神代さん。素のままで全然構わないよ」

「え?」

「いつも通りでいいと言っているんだ。無理をしてまで自分を偽る必要はない」

「はっ、はぁ……」


 私が春人のことを“春人さん”って言い直したことに対して言っているのかな?

 相手は一応、院長でもあり春人のお父さんでもあるから、ちゃんとしなくちゃって思っただけなんだけど……。

 冬斗さんがそう言うのなら、いつも通りの私でいいのかな……?


「神代さん」

「はい?」

「自分のことに疎いバカ息子ではありますが、こんな息子でよければ、どうぞよろしくお願いします」


 ぺこり。

 冬斗さんは私に向かって深々と頭を下げた……って、えええっ?!
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