桃の花を溺れるほどに愛してる
「そういえば、桃花?あなた、今どこにいるの?」

「えっと……あっ」


 質問に答えようとしたら、横から春人が携帯電話を取り上げた。

 つい先程までの頬の赤さは、すでに引いているようだった。


「こんばんは。ご無沙汰しております。お電話を替わらせていただきました、天霧です」


 春人が落ち着いた様子でそう挨拶すると、受話器の向こうからテンションの高いお母さんの声が聴こえた。

 お母さん……そんなあからさまに嬉しそうな声を出さなくても……。


「今から娘さんを御自宅の方へお送りしたいと思っていたところです」

「あっら~!そうなの?あっ、そうだわ!もしよければ、天霧さんも一緒に晩ご飯をどうかしら?」

「えっ、そんな急に……」


 春人が持っていた私の携帯電話を奪い返した私は、早口気味に言った。


「行くって!春人、家に行くって!」


 刹那、春人がギョッとした表情を浮かべたけど、私は気付かないふりをしてお母さんとの電話を続ける。


「あら、本当に?!天霧さんのお口に合うといいんだけれど……」

「合う!合うと思うよ!じゃっ、今から帰るから、よろしくねっ」


 そのまま通話を切った。


「桃花さぁ~ん……」


 うっ……。

 春人に目をやると、なんとも情けない表情を浮かべていた。
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