桃の花を溺れるほどに愛してる
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 次の日。

 用意を済ませて家を出ると、そこにはやっぱり、もう見慣れてしまった赤い車。赤い車が停まっていない時の方が、不安で心配になっていそう。


「春人!おはよっ」

「おはようございます!」


 元気よく挨拶をすると、春人は笑顔で返事をしてくれた。

 私は足早に助手席へと乗り、シートベルトを装着する。


「前から思っていたんだけど、毎日毎日こうやって送り迎えしてくれるのは嬉しいんだけどさ……仕事、大丈夫なの?」


 病院って、そう簡単にこういう自由時間が与えてもらえるはずはないよね?

 仮にも病院だし……命にかかわるところのわけだし、今こうやって送り迎えをしてくれている間にも、苦しんでいる人がいるのは確かなわけだし。


「ここへ来る前に、ちゃんと父に声をかけているので問題ないですよ。それに……どうしても外せない急用が出来たら、携帯に連絡をいれてもらうように言ってありますし」


 春人のお父さん……って、冬斗さんだよね。


「患者の皆さんはもちろん大切な存在ですが、それ以上に桃花のことが大切で大事な存在なんです、僕は」


 さらりとそんなことを言いのけるものだから、不覚にも私の頬は熱くなった。
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