桃の花を溺れるほどに愛してる
「雪子ちゃんだけじゃないです」

「……れ」

「他の女の子たちも――」

「――黙れ、黙れ、黙れっ!!!」


 くわっと両目を見開いた榊先輩は、近くに落ちていた鉄の棒を拾い上げ、ゆらりと立ち上がった。

 そして、そのまま、私の前まで歩み寄って来る。

 でも、不思議と怖くはなかった。この状況に心まで麻痺してしまったのだろうか?いや、違う。

 榊先輩はゆっくりと棒を振り上げたけど、その手はガタガタと震えている。

 これは、どうして?怒りで?それとも、本当はこんなことをしたくないから?

 私はゆっくりと息を吸い込み、真っ直ぐに榊先輩の顔を見つめながら、言った。言い放った。


「――どうせ、私も捨てるんでしょ?」


 ぴたり。
 榊先輩の動きがとまる。

 何かしら確信があったわけじゃないけど、どうしてなのかは分からないけど、この言葉を言ったら、棒を振り下ろされない自信があった。

 現に、榊先輩の動きはとまった。

 ガタガタ。ガタガタ。尋常じゃないくらいに手を震わせながら、両目から涙を溢れさせる榊先輩。


「っが……ちがっ……違う、んだ……ちが……俺は、捨てるつもりなんか、俺は……ただ……ただ、君を……」


 ガシャンという音をたて、榊先輩が持っていた棒は下へと落ちた。
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