桃の花を溺れるほどに愛してる
 桃花さんを抱き抱えた榊壬、聖くん、運転していた男の3人は、廃病院の中へと消えていった。


「……そうだ。警察は……!」


 ハッと我に返り、自分の携帯電話のディスプレイを見た途端、頭がくらりと揺れた気がした。

 ディスプレイに表示されている文字は、【圏外】……この2文字。ここが山の中だからか、電波が届いていないようだ。

 いったん山の下におりて、警察に連絡するのがいいのかもしれないけど、桃花さんが何をされるか分からない以上……そんな時間はない。

 ここはやっぱり、僕が1人で桃花さんを取り返す。それしか方法と道は、無いのだろう。

 僕は車の収納スペースにいれておいた懐中電灯を取り出し、意を決して廃病院の中へと足を踏み入れた。

 中は思ったよりかは綺麗な内装で、懐中電灯がなくても十分に明るかった。とは言え、この先に何があるのか分からないので、懐中電灯は持って来てよかったと思う。

 彼らは桃花さんたちをどこへ連れていったのだろう?一歩、また一歩と、ゆっくりと足を前へと進ませていく。

 すると……。


「クソがっ!あの女、1発殴ってやろうと思ったのによぉっ!」

「まぁまぁ、そんなカッカッしないでくださいっすよ、オッサン」

「なんやと?!オッサン?!俺はこう見えても25歳やぞっ!」

「うっそ。マジ?」


 そんな運転していた男と、聖くんの声が前方から聴こえた。……榊壬はいないようだ。

 僕は慌てて物陰に隠れ、2人の様子を伺う。
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