桃の花を溺れるほどに愛してる
「んじゃ、俺は出入り口の見張りをやっておくから、オッサンはその辺りの見張りをよろしくー」

「だからオッサンじゃねぇって……って、行っちまいやがった。ったく」


 聖くんはひらひらと手を動かし、そそくさと廃病院の出入り口の方へと歩いていった。

 オッサン……もとい、1人残された男は、しかめっつらで辺りをキョロキョロと見渡す。

 ……本当は誰かを傷付けたくはないんですが、やむをえません。せめて気を失っていただけるとありがたいのですが……。

 近くに落ちてあった鉄の棒を握り締め、男に気付かれないように背後から近付き、鉄の棒を振り上げた瞬間――。


「――バレバレやで」

「んなっ?!」

「この前はよくも俺の邪魔をしやがって……っ!!!」


 男は僕の方を振り返り、鉄の棒を握る手に蹴りをいれた。その瞬間、手の中からするりと抜け落ちた鉄の棒は、遠くへと吹っ飛んでいった。


「あっ……!」

「棒より、自分の心配をせぇよ」

「えっ――」


 ――ドゴッ!

 僕のお腹に、男の拳が減り込むようにしてヒットした。刹那、急激に吐き気を感じ、僕はその場に丸くなる。


「まだまだやで」


 襟元を掴まれ、持ち上げられた瞬間、また拳がお腹にヒットした。


「ぐはっ……」


 立て続けに3回ほど殴られたあと、僕は廊下の壁に向かって投げ飛ばされた。背中に猛烈な痛みが走る。
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