桃の花を溺れるほどに愛してる
 ――「えっと……助けてくれたことに関してはありがたく思……いますが、“初対面”の人といきなり付き合うのは……ちょっと……」

 桃花さんが僕と過ごした日を覚えていなくても、桃花さんが僕のことを全く覚えていなくても。


 ――「ちょっ、人を呼ぶわよっ?!」

 桃花さんに不審者に思われて、白い目を向けられて、軽蔑されても。


 僕は桃花さんが幸せに過ごしてくれるなら、いっぱい笑顔を浮かべてくれるなら、それでもよかった。

 ただ、桃花さんの笑顔のために、幸せのために、守り続けていたというのに……どうして、こんなことになってしまったのだろう。


 ――「僕のことが嫌いなら、どうか桃花さんの手で僕を殺してください」


 僕がそう言ったあと、桃花さんは困惑していて、それを見た僕は、これ以上桃花さんを困惑させないようにと消えようとしたけれど……桃花さんはそんな僕を、引き止めてくれた。


 ――「んもう!何度も言わせないでよね!付き合ってあげるわよって言ったの!」


 そこに、恋愛感情がなくとも。


 最初は夢だと思った。心地のいい夢。醒めたくない夢。壊したくない夢。

 偽りの恋人でも、傍にいれて幸せだった。でも、それが桃花さんにとって苦痛だと分かっていた。

 僕は醜くて、最低な男だ。

 別れの言葉は口にせず、桃花さんを解放してあげられず、距離をおこうだなんて……中途半端な言葉を投げ掛けた。
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