桃の花を溺れるほどに愛してる
「きおく、そうしつ……?私が……記憶喪失……?嘘よ……だって、そんなはず……あるわけが……」

「嘘じゃないよ、桃花ちゃん。俺のせいなんだ。俺が雪子といるところを君は見て以来、君はどんどん痩せ細っていって、体調も悪くなっていって、そこの異常者の病院から盗んだ薬を飲んで、自殺未遂を犯した」

「自殺……未遂……?」

「幸いにも死ぬことはなく、一命を取り留めたけど、俺と雪子は付き合っていると認識した辺りから、君が病んで自殺未遂を犯した約2ヶ月の間の記憶を……失ってしまっているんだ」

「……約、2ヶ月……って、そんな。私、頭の打ち所が悪くて意識不明だったんじゃ……」

「そんなの、君の記憶が戻らないようにとついた嘘。戯れ事だよ」

「なん、で……」

「さぁ?また君に自殺未遂を犯されたら困るからなんじゃないか?」

「……」

「なぁ。そんなことより、思い出してくれた?君が俺のことを好いてくれていた時の気持ち。記憶が戻ったら、俺のところに来てくれるかなって思ったんだけど……どう?雪子とはもうなんでもないんだし、いつでも俺のところに来てくれていいんだからな?」


 ……榊壬は、何も分かっていない。

 自分のモノにしたいがために、記憶を戻させようとしている。

 桃花さんの記憶が戻ったら、桃花さん自身がどうなってしまうのか……分からないのに。

 桃花さんの気持ちを、桃花さんのことを、一切考えていない。

 「とんだ歪んだ愛情だね」なんて、僕には言う資格はないけれど。
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