桃の花を溺れるほどに愛してる
「きおく、そうしつ……?私が……記憶喪失……?嘘よ……だって、そんなはず……あるわけが……」


 ドクンッドクンッと、心臓がかつてないほどの速さで動き出す。

 身体から嫌な汗が滲み出して、カタカタと小さく震え出す始末。

 どうして?

 どうして、こんなに私の身体は震えているの……?


「嘘じゃないよ、桃花ちゃん。俺のせいなんだ。俺が雪子といるところを君は見て以来、君はどんどん痩せ細っていって、体調も悪くなっていって、そこの異常者の病院から盗んだ薬を飲んで、自殺未遂を犯した」

「自殺……未遂……?」


 榊先輩は何を……言っているの?


「幸いにも死ぬことはなく、一命を取り留めたけど、俺と雪子は付き合っていると認識した辺りから、君が病んで自殺未遂を犯した約2ヶ月の間の記憶を……失ってしまっているんだ」

「……約、2ヶ月……って、そんな。私、頭の打ち所が悪くて意識不明だったんじゃ……」


 病院の人にも、お母さんやお父さんにも、私は意識不明だったって言い渡された。


「そんなの、君の記憶が戻らないようにとついた嘘。戯れ事だよ」


 それなのに……え?私が自殺未遂をして記憶喪失になっている?え?えっ?ちょっと何を言っているのか分からない……よ?
< 322 / 347 >

この作品をシェア

pagetop