桃の花を溺れるほどに愛してる
「なん、で……」

「さぁ?また君に自殺未遂を犯されたら困るからなんじゃないか?」

「……」


 そのあと、榊先輩は長々と何かを話していたが、しっかりとは聴いていない。“聴こえていなかった”、が正解かもしれないが。

 とにもかくにも、私は記憶喪失で、私の記憶が戻らないように……みんなは私に嘘をついて騙していたっていうこと?

 ――いや、違う。

 守っていてくれたんだ。

 私が記憶を取り戻したらつらいだろうって分かっていたから、何も言わずに守ってくれていたんだ。

 今なら、両親が以前に比べて優しくなった理由が分かる気がする。

 失われた記憶……それを取り戻したら、私はどうなるの?何かが変わってしまうの?失われた記憶には、一体何が詰まっているというの?

 私の失われた約2ヶ月の記憶の中に、一体何が――。


 ――「アンタ、死ぬの?」


 ……え?

 不意に頭の中を過ぎったソレに、私の身体はビクッと硬直する。


「桃花ちゃん?」


 榊先輩の心配そうな声を聴いた刹那、頭の中が……まるで花火のように、パチパチと光り輝いていく。


「あ……ああ……あ……!」


 口から意味をなさない言葉が次々と溢れ出て、思わず頭を抱え込む。
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