桃の花を溺れるほどに愛してる
 春人が手首を切って意識が戻らないって聞かされた時、このまま死んじゃったらどうしようって、失ってしまった時の恐怖が過ぎって……。

 この人を失いたくないって、強く思った。

 でも、これって、私が春人を好きだって気付くキッカケに過ぎないか。

 どうして好きになったのかは……。


「ごめん、分からない。……多分、話しているうちに、いい人だなって思い始めたんだと思う。この人だけは失いたくないって、思ったの」

「それだけで十分ですよ」

「でも、春人みたいにちゃんとした理由があるわけじゃないし……」

「いえいえ。僕はその言葉だけで、十分に嬉しいです。僕を好きになって頂いて、本当にありがとうございます」

「……バーカ」


 2人で笑い合っていると、廊下の遠くの方から、たくさんの足音がした。


「もしかして……!」

「警察の方ですかね」


 次第に近付いて来る足音。

 助けに来てくれたのだと思うと嬉しいのに、ちょっと名残惜しく感じるのは……こんなこと、言ったら悪いけど、2人の時間を邪魔されたように思うからなのかな……。

 こんなことを思うのって、恋は盲目っていうヤツと関係していたりする……のかな?周りが見えていないというか。って、おい。これじゃあただのバカップルじゃないか。
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