桃の花を溺れるほどに愛してる
「沢田さんの家はどこですか？」

「私の家は～……」


　京子の言葉を聞きながら、車を発進させてハンドルを操作する春人。

　私はそんな２人のことは無視し、変わりゆく窓の向こうの景色をぼんやりとした面持ちで眺めていた。

　なんていうか、おもしろくない。

　２人が親しげに会話しているのが、見ていておもしろくない。


「桃花さん？」


　不意に、春人がバックミラー越しに私の方を見ながら声をかけてきた。


「んぁ？」


　何か用なのかと、不機嫌オーラ丸出しで春人の方を向く。春人は、何やら心配そうに眉を寄せていた。


「ちょっとー、桃花！彼氏の呼びかけにその反応はないんじゃない？」


　隣に座っている京子は口を尖らせていたが、私は軽く聞き流してした。

　京子は事情を知らないからそんなことが軽く言えるんだ……！

　仮にもヤツは私が長年悩んでいたストーカー張本人だからねっ？！

　相手は京子なんだし、別にバラしてもいいんだけど……バラしたらバラしたらで「別れろ」だの「警察に突き出せ」だの言うだろうしなぁ。

　私もそれができるのなら昨日のうちにフッてるよ！フッておさらばしているよ……っ！
< 45 / 347 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop