桃の花を溺れるほどに愛してる
「何か……怒っていますか?僕、何か怒らせましたか……?」


 恐る恐るといった感じで尋ねてきた春人。

 ええ、確かに機嫌、悪いわよ。怒っているわよ。主に……いえ、全面的に春人!アンタのせいでね!

 でも、そんなことを言ったら面倒なことになるのは見えているので、というか、会話自体するのが億劫なので、私は「別に」と言った。

 春人は「そうですか……」と一応は納得したようだけど、声音を聞いたり心配そうな表情を浮かべているのを見る限り、完全には納得していないわよね……。

 まぁ、突っ込まないけどね。見て見ぬフリをとことん決め込むけどね!


「あっ、ここです!ここが私の家です~!」


 ……さっきから見覚えのある景色だなぁ、とは思っていたけど、京子の家の近所だったからなのね。

 春人は京子の家のすぐ目の前に車を停め、京子をおろした。


「天霧さん、送ってくださってありがとうございました~!……桃花っ、」

「ん?」

「グッジョブ!」


 何が?!何がグッジョブなの?!

 意味が分からずにア然とする私をスルーし、京子は大きく手を振った。

 それに対して小さく頭を下げた春人は、再び車を発進させたのだった。
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