桃の花を溺れるほどに愛してる
 唖然とスタッフロールを眺めていると、映画の上映は終わったようで、部屋が明るくなった。

 いくら“キミのとなり”を知らなかったとはいえ、ちょっと知識をいれてから観に来ればよかったな……。

 いや、ちょっと知識をいれてからだと、観に来ることは無かったのかもしれないが。

 あまりにも衝撃的すぎるストーリーだった。タイトルからしてほのぼのとした感じだと思った数時間前の私を殴りたい……!


「なっ、なかなかおもしろかったね……?」


 引き攣った笑みを浮かべながら春人の方を向く。

 自分でこの映画を見ると言った手前、さすがに「つまらなかった」とは言えまい。

 ここはどんなストーリーだろうと、肯定的にしておけば丸くおさまる……はず。

 春人の方を向いた私は、思わずギョッとした。


「うぅ、とっても感動的なストーリーでした……!」


 春人は感動のあまり、号泣していた。目を真っ赤に腫らし、思い切りティッシュで鼻を噛んでいる。

 えぇ……?そこまで号泣するほど感動的……だったか?春人の感性がよく分からない。――が、本人は満足しているようなので、水を差すようなことは何も言わないことにした。

 それにしても、なんか、大の大人がこうまでして泣いているのって、ちょっとかわいいな……なんて!ちっとも思ってないんだからねっ?!
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