桃の花を溺れるほどに愛してる
「んー、もう、ハイ」


 思っていた以上に号泣しているのだが、見るに兼ねないので、私は持ってきていたハンカチで春人の涙を拭ってあげた。

 キョトンとした様子の春人。まさか私に涙を拭われるとは思っていなかったのだろうか?


「あわわわ……!桃花さんの綺麗なハンカチが、僕のような奴の涙なんかを拭いたら汚れてしまいますよっ」

「はぁ?別に、汚くないし」


 春人って本当によく自虐的な発言をするよなぁ……。昔に何かあったのか、はたまたただの癖……なのか。

 なんにせよ、汚いって思っていたらわざわざ自前のハンカチで拭わないっつーの。察しろ、バカ。


「とまった?涙。それじゃあ、とっとと行きましょっ」


 いつまでも上映し終わったこの部屋にいたら、映画館を管理している人たちに迷惑がかかるだろうし……。

 私は春人の腕を引き、部屋を後にした。

 もともとご飯を食べて映画を見て、このデート……?らしき何かを終わらせるつもりだったので、あとは帰るだけになるのかな?

 でも、一般的の普通のカップルなら、まだ一緒にいたい、ギリギリの時間まで一緒にいたい……とか思うのだろうか?

 私は……――。


「桃花さん、送っていきます」

「えっ?!うっ、うん」


 映画館を後にし、私達を乗せた春人の車は、私の家に向かって走り出していた。

 ……“まだ一緒にいたい”?まさか。こんなストーカー野郎とまだ一緒にいたいなんて、“普通は”思うわけがない。

 そりゃあ、ブレスレットを買ってくれたことには感謝しているし、映画もぶっ飛んだ内容のわりに面白かったし……。

 春人と一緒にいること、別にそこまで嫌じゃなかった……し……。
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