桃の花を溺れるほどに愛してる
 はいはい、そうですか。そんなに私とどこかへ行きたいんですか。あー、そうですか。ふーん。

 ……いやいやっ、今のは失敗しちゃったけれど、このやり方ならいずれいけるかもしれない……っ!

 とことん嫌な女を演じて、春人に嫌われて、それでフラれちゃおう!

 グッバイ、ストーカー!ハロー、いつも通りの日常!ってねっ。


「でも、今から行くのはちょっと無理かなー。今日は早く帰ってこいってお父さんに言われているしー」


 今から海遊館や動物園へ行こう!的な雰囲気を醸し出してからの、急降下!「今日はいけない」って寸止めだー!


「もちろん、最初からそのつもりですよ。今日は桃花さんと食事をしたり映画を観たりして、とても楽しかったです」


 えっ。


「あ、ほら。桃花さんの家が見えてきました」


 え、マジで?今から行けないことにガッカリしているんじゃないの?

 なんで……そんなにも笑顔なの……?なんでそんなにも「楽しかったです」って、笑顔で……。


 ――胸の辺りがもやもやとしたまま、私は、自宅の前で春人と別れた。


「……ちょっと、今からでも春人と遊びに行きたかったなー、なんて……」


 ?!

 何、考えちゃってんの?!私っ!

 春人と他の場所に遊びに行きたいだなんて、考えているわけがないじゃない!そうよ!そんなこと、あるはずがないんだからっ!

 私は自分の頬を軽く叩いた後、「ただいまー」と声を出しながら、自宅の中へと入っていく。

 その瞬間、モルガナイトのブレスレットが、キラリと輝いてみせた。
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