赤の鎖
プロローグ
肉の腐った臭いが鼻を掠めた
無意識に、鼻の頭をぽりぽりと人差し指で掻く
もう地に足を着けなくなって随分経つというのに、いまだこの癖は消えない
人間であった頃の自分に、まだ未練がましくしがみついているのだろうか
ふいに、足下に転がる女の死体を見下ろす
それはもはや、“人”ではなく“塊”にすぎない
「可哀想に....」
腰を屈めて、その塊に手を添わす
しかし、途中で手を引っ込めた
彼女の哀れな姿に、涙が溢れそうになる
ごめんなさい....
心の中で、何度も何度も頭を下げた
あなたがこんな目に遭ってしまったのは――....
多分、私のせい
最後に一度、両手を合わせて、私はその場を離れた
塵も積もれば山となる
微かな胸の痛みに顔を歪ませながら、そう心の中で呟いた
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