赤の鎖
『別れてほしい』
私がそう言ったときの彼の表情は――笑顔、だった
それも、怖いくらいに綺麗な
少し、期待した
今まで私に執着してきたひかる
私を離さなかったひかる
そんな彼から、やっと解放されると
――期待した
しかし、気づけばヒカルは、手に握っていた包丁で私の右太腿を刺していた
『あああああああ!!』
獣の咆哮のような
そんな叫び声が、唇から洩れる
痛みに喚く私に、ヒカルは依然と微笑んだまま
初めて、本当の恐怖を味わった
痛む太腿。朦朧とする意識
次は腹部を刺されたのだと、Tシャツの中心部に広がる鮮血を見て、気がついた
不思議と痛みはもう感じない
ただ、狂気じみたひかるの笑顔に対する恐怖と、
私を不幸にした男に、
言い知れぬ憎しみを感じた
「ミナホ――愛してるよ....」
生前に聞いた、最後の言葉
それはあまりにも、
残酷で、幸せなものだった――