カリス姫の夏
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「ここでいいよ。
お父さんが迎えに来てくれるから」
待ち合わせの鳥居まで戻ると、キョロキョロと周りを見回し、お父さんの車を探した。幸い、まだ到着していない。
「今日は、ありがとう、誘ってくれて。
お祭り、久しぶりだからうれしかった」
精一杯の感謝を伝える私に、藍人くんは両眉をさげ申し訳なさそうな顔をした。
「でも、なんかこんなことになっちゃって、誘って悪かったなって」
ふだんより幼く見える藍人くんに、私は大きく首を振った。
「ううん、そんなことない。
楽しかった。
ホントだよ。
でもね……」
心の距離が縮まった気がする。
気のせいじゃないと自分に言い聞かせると、普段は眠っている勇気を叩き起こした。自分の胸につかえた疑問を最後にどうしても解消せずにはいられない。
私は藍人くんを食い入るように見つめた。
「藍人くん。
なんで、私なんか誘ってくれたの?
藍人くん、私の事なんにも知らないよね。
会ってまだ半月位しか、たってないし」
「そんなことないです」
藍人くんは真剣な目で見つめ返し、徐々に声のボリュームを上げた。
「僕は莉栖花さんのことよく知ってます、1年以上前から。
会いたくて、会いたくて、ずっと捜してたんだから」
「1年以上前?」
私がクエッションマークのつけて反復すると、藍人くんは『しまった』という顔をして目線を反らした。
その表情と藍人くんの言葉に、彼が隠す秘密をかいま見た。胸さわぎが、私を締めつける。
藍人くんに問い詰める口調は、意図せず、厳しくなった。
「1年以上前ってどういうこと?
1年前って藍人くん、中学生だよね。
家も離れてるし、出身中学だって違うのに。
捜してたってどういう意味?」
目線を合わせられない藍人くんは、みるみる青ざめていく。言葉を選んでいるのか、薄く開けられた口から音は発せられない。
私の視線は、藍人くんを責め続けた。
「ねえ、藍人くん。
どういう……」
2人の間を流れるただならぬ空気を、車道から響くお父さんの声が打ち破った。
「莉栖花!!
りーすーかー!!」
車道を見ると、介護タクシーの運転席からお父さんは顔を出し、手を振っている。何が嬉しいのかニコニコと満面の笑みを投げかけて。
何度か藍人くんとお父さんの車をキョロキョロを見比べた。しかし、留まるわけにもいかない。
疑問を解決できないまま、藍人くんを残し私は足を引きずりながら車に向かった。