カリス姫の夏


「なあ、莉栖花。
今、お前、男の子と一緒にいなかったか?」

助手席に乗り込んだ私にお父さんは、あくまで平常心を装い質問した。けれども、私の脳内は今それどころではない。


藍人くんの言葉の意味を分析するため、スーパーコンピューター並みの速さで脳みそを回転させている。


『1年以上前』ってどういう意味?
私が高校2年生?いや、1年生かも。
藍人くんが中学3年生か2年生。
家だってこんなに遠いし、どう考えても接点ないよね。
だいたい『探してた』ってどういう意味?
じゃあ、どこで私の事、知ったっていうのよ。
1年以上前って、何かあった?


「なあ、莉栖花。
あの男の子はお前の友達か?」


「うるさいな!!
ちょっと黙っててよ!」


怒る私に面喰い、お父さんは押し黙った。


持っているデーターは、全て打ち込み終えた。フル回転のコンピューターが答えを出すのを待つ。


答えは、ほぼ正解へと向かっている。


意図的に結び付けないようにしていた事実が、切っても切り離せない事を認めざるをえない。そう、それならば、全て一本の線で繋がる。


『古本屋の入り口で会った』のも『北海道から帰った日、タイミングよく家の前にいた』のも、私のツイッターを見ていたから。

とどのつまり、私がカリス姫だと知っている。


私がネットでカリス姫の動画をアップするようになったのは、1年半くらい前から。

藍人くんは、どこかでカリス姫の動画を知り、私の……いや、カリス姫のファンになったんだ。それで、何かのきっかけで私がカリス姫だと知り、興味を持っただけなんだ。


クックックッと、自虐的な笑いがこみ上げる。


肩を小刻みに揺らし笑う私を、赤信号で車を止めたお父さんが心配そうに見ているのが、視界の切れ端に分かった。


ああ、良かった。
早くに気づいて。
結局、藍人くんは、リアルの私ではなくカリス姫を見ていたんだ。
そんなこっちゃないかと思った。
本当に良かった。
マジにならなくって。


『ほらなっ』とネガティブが大きな顔をした。
はい、貴方様のおっしゃる通りでございます。
と、私はひれ伏すしかない。


でも、最悪の事態は免れた。本気になる前に難を逃れたのだと、自分自身をなぐさめる。


ああ、すっきりした。
< 120 / 315 >

この作品をシェア

pagetop