カリス姫の夏
はっきりさせなきゃならない設問は、よく分かっている。
『藍人くんは、私がカリス姫だと知っているのか』
『藍人くんはナイトの国の住人か』
この二点。
ラインで聞いてもいいのだが、それが嘘か誠かを見極めるためにも、直接会う必要がある。
でも、それをはっきりさせたがために、今まで私を支えていた物がガラガラと崩れる危険性もある。それが分かっているだけに、簡単に決断できず今日に至った。
今日バイトが入っててよかったと、心底思う。
テーブルの上に置かれたスマホを手に取ると、初めて来た華子さんからのメールを開いた。
愛想のない華子さんらしく、メールには件名『明日の仕事』 本文『開始時間.勤務地』だけ。儀礼的な挨拶も、私の都合を尋ねる気遣いもバッサリ省略されている。
今日のバイト先は民家だが、我が家から意外と近いことが、住所を見ただけで分かった。
「雨か……」
なんだか、今日は自転車にも乗りたくない気分だ。
雨ならおあつらえ向きだ……と、徒歩で行く決断をした。