カリス姫の夏
ちょっぴり照れて頬が赤くなり、思わず視線を床に落とした。けれども、総一郎さんは私の横を素通りした。
あれっ?と思い、その行方を視線で追う。すると、そのがっしりとした身体(しんたい)は、藍人くんの前にあった。
ほぼ同じ身長の男達は顔を突き合わせ、2人の距離が30センチ位まで近づいた。
ぴっちりとしたタンクトップの袖から、総一郎さんの日に焼けたたくましい腕がのぞく。その筋肉はピクピクと動いている。何かに興奮しているかのように。
総一郎さんは、藍人くんをまじまじと見ながら
「うーん、それに……
きみー、どっかで会ったことが……」
と誘うような声で言った。その姿に再びよみがえった言葉。
『俺の将司の命を奪ったこと……』
『オレの将司の……』
『オレの……』
『オレの……』
なぜだか、ものすごい危険を感じる。全身に鳥肌が立つ。本能的にここにいてはいけないと察知し、私はあたふたと総一郎さんと藍人くんの間に入った。
「藍人くん、タマミさん捜しに行こう。
インシュリン注射の時間まで2時間きったから」
「は……はい」
一刻も早く、この場から立ち去らねば。
私は藍人くんを急かし、逃げるように家を出た。