カリス姫の夏
タマミさんの家の重厚な門をくぐり抜け、道路に出るとやっと一息ついた。
ふと、自分の手のひらに収められている温かい感触に気づく。自分の右手に視線を送り、私は目が飛び出るほど驚いた。
私の手と繋がれていたのは、藍人くんの手。
私は無意識に藍人くんの手を取って家から出てきたのだ。玄関でゆっくり靴を履くことも許されなかった藍人くんはスニーカーのかかとを踏みつぶし、私に引きずられるようにしてここまで来ていた。
自分の大胆さに驚き、大脳がフリーズしている。
数秒後、なんとか脳みそを再起動し、投げ捨てるように手を離した。
「ごっ、ごっ、ごっ、ごめんね。
いや、なっ、なんか慌てちゃって」
「いや、別に。
そんな、えっとー」
前代未聞の自分の行動に、次のセリフが出てこず、口はあわわわわと意味もなく動く。藍人くんも、真っ赤な顔で額に汗を滲ませている。
不自然に立ち尽くす男女の傍を、お手元配達がモットーのバイク便がブォーンと走り抜けた。
「とっ、とりあえず、タマミさん、捜しましょう。
僕、そっち捜すんで、莉栖花さん、あっちの方見てくれませんか?」
排気ガスの臭いに現実を取り戻したのだろうか。藍人くんは、私をリアルの世界に呼び戻した。
「うっ…うんっ」
藍人くんの指示に素直に従い、私は自分のエリアを探索に走りだした。