カリス姫の夏
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関東地方が熱帯地域になった、なんて報道を『おおげさだ』なんて笑っていたけど、あながち間違いではないかも……
と、外を歩き回る私は流れる汗を手で拭いながら思った。
今日の最高気温は、何度なんだろう。
基本、室内育ちの私は太陽光に弱い。照りつける太陽の日差しにめまいを覚える。
「タマミさーん。
どこにいるの?
ごはんの時間ですよー」
お隣さん、そのまたお隣さんの庭に侵入し、花壇の花をかき分けてタマミさんを捜す。不法侵入で訴えられても文句言えないなと心に刻みながら。
「いないよーーー」
いったん道路に出た私はがっくりと肩を落とし、周囲を見回した。高級住宅街の住人はこんな日に歩きまわったりしないのだろう。犬を散歩させている人さえ会わず、木陰で涼む雀が哀れむように私を見下ろしてる。
汗で濡れ皮膚にまとわりつくTシャツを指でつまみ、パタパタと風を送り込んだ。
「あっつーい。
もう、無理だよ。
体力限界」
私は斜め掛けしていたカゴバック風のポシェットから、ペットボトルを取り出した。ぬるくなったミネラルウォーターに口を付ける。ゴクゴクと喉を鳴らすと、半分残っていた水はあっという間に、私の体に吸収された。
これで、体力は僅かばかり回復したはず。自分自身を奮い立たせ、重い足取りで数歩足を運んだ。
すると、背中から藍人くんの呼び声が。
「莉栖花さーん。
タマミさんいましたか?」
振り向くと、私に負けず劣らず、汗だくの藍人くんが駆け寄って来た。私は、かぶりを振った。
「みつからないね。
華子さんは家で待機してるんだから、家に帰って来てたら連絡くれるはずだし」
私の言葉に、藍人くんも同意する。
「そうですよね。
連絡来ないってことは、まだ見つかってないんですよね。
でも、猫の行動範囲ってそれほど広くないっていうから、さほど遠くには行ってないと思うんですけど……」