カリス姫の夏
藍人くんの話に、相づちを打つ元気も無い。私は無言で、ガックリと肩を落とした。


炎天下にさらされて立ちつくしていると、タオルを絞るように汗が噴き出る。せめて日陰に身を寄せよう。


ところが、なぜだか手足に力が入らない。歩き出した私は酔っ払いのお父さんのように足がもつれた。身体が宙に浮いたような感覚になり、千鳥足できちんと歩けない。なんとか日陰に身を寄せた所で立ってもいられず、しゃがみ込んだ。


「大丈夫ですか?
莉栖花さん。
気分悪いんですか?」

藍人くんは、優しい呪文を頭から振り注いでくれた。


けれども、私は地面を歩く蟻の行列を見つめながら

「うーん、なんだろう。
なんか、こう、力入らないっていうか……
めまいするっていうか……」

と言うだけで精一杯だ。


「そういえばご飯は?
お昼ごはん、食べたんですか?」


「うん、家出る前に菓子パン食べてきたし……
お母さんにきつく言われてるから水分はしっかり取ってるんだよ。
今だってミネラルウォーター飲んで。
バイト始まってから、これで3本飲んだし」


「3本?
水をですか?!」


藍人くんは、驚いたように尋ねた。何か考えているのか無言の藍人くん。そんな藍人くんを見上げると、彼はボディーバッグを肩から外し中を探った。その手に握られていたのは、銀紙に包まれた………おにぎり?!


「これ……食べて」
と、藍人くんは手を差し出す。


「えっ?
おにぎり?
いや、わたし別にお腹すいてるわけじゃ……」


「いいから、早く!」


珍しく強い口調の藍人くんに、おにぎりを押しつけられる。受け取った私はすぐ横の低い塀に腰かけ、渋々、おにぎりの銀紙をはがした。

裸の大将じゃないんだから、おにぎりって……とも思ったが、真剣な藍人くんの心遣いを無下にもできない。


おにぎりを口にすると、ゴマ塩の塩っからさが口いっぱいに広がった。もぐもぐとよく噛みしめて食べる。具は梅干しで、食べると力がみなぎってくる。身体中の細胞が喜んでいる。


「すごい。
なんか元気出てきた。
おにぎりって最強だね。
すごいよ。
ありがとう」


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