カリス姫の夏
藍人くんはほっとした顔を浮かべながら、小さく首を振った。


「ううん、それはおにぎりとか……米とかじゃなくって。
つまり、塩っていうか…ナトリウム………」


「塩?
どういうこと?」


怪訝な顔で聞き返したら、あらぬ方から返事があった。


「低ナトリウム血症。
水中毒ってやつだよ」


ぎょっとして振り返ると、そこには……

「華子さん!!
タマミさん、みつかったんですか?」


いつからなのか華子さんは、私が腰掛ける塀に寄り添うように立っていた。


「いいや。
やわな総一郎が、外捜すのもう嫌だって言いだしてさ。
仕方ないから交代してきたのさ」


「なぁーんだー。
まだ見つかってないんだ。
で?
さっきの、テイナトリウムケッショウって何ですか?」


「血液中のナトリウム……塩がね、足りなくなったのよ。
子リス、あんたさ、汗かいてるからって水ばっか飲んでたでしょ。
汗かいたらナトリウムとかミネラルも失われるんだから、ちゃんと塩分も補給しときなさいよ」


「はーい。でも……」


藍人くんの顔を見た。そう、もう一つ、彼の謎は解けていない。出会ったころからくすぶっていた疑問。それが、口をついて出た。


「藍人くん……
なんで、すぐに分かったの?
なんで、私が体調悪い原因……」



しかし、私が質問を言い終えるのを待たず、華子さんの携帯が着信音を鳴らした。朗報である期待が、ささいな疑問を吹き飛ばす。2人が見つめる中、電話に出た華子さんは無愛想にふんふんと短く返事し、電話を切った。


「タマミさん。家に帰ってきたってさ」


「本当ですか?
やったー!!」

「よかったですね」


捜索隊は、タマミさんの家へと軽い足取りで急いだ。『責任』と『義務』を肩から下ろして。




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