カリス姫の夏
山のような洗濯物が、かごから溢れ落ちていた。


まさか、この中に埋もれてもいないだろうと思ったが、とりあえずかき分け、タマミさんを捜す。

洗濯物を一通り手前に移動させる。と、その奥に30センチ四方の正方形の穴が床近くの壁に開いているのを見つけた。穴の横にここの蓋と思われる板が立てかけてあるが、ずぼらな性格なのか、閉め忘れたのか、蓋の意味はなしていない。


「あっ!!
あった。
こっ……これ?
改め口?」


大慌てで、洗濯物を乗り越えその穴に頭を突っ込んだ。見ると、おどろおどろしい真っ暗闇の中、宝石のような光がふたつ輝く。その宝石が猫の目だと瞬時に鑑定できた。


「タッ、タマミさん!!」

思わず出た大声にタマミさんは警戒したらしく、立ち上がると穴から数歩離れて私をにらんだ。


「タマミさん、居たのかい」


華子さんは隊員の功績を褒めたたえることもせず、私を押しのけると穴の中を見た。そして、穴に顔を突っ込んだまま、声を上げた。


「ねえ、ここの奥ってどこかと繋がってるんじゃないかい。
ずっと奥の方、ちょっとだけ光差してるよ。
ねえ、総一郎。そっちって居間だよね。
この壁づたいに見てみてよ」


案外、人のいい総一郎さんはそそくさとリビングに消えて行った。


そしてすぐさま

「おい、華子。
暖炉の奥、穴あるぞ。
ここと繋がってるんじゃねーか。
お前、ゴキブリ一匹入れないとか言って、ずぇんぜん、見落としてるじゃねーか」

と、叫んだ。


「暖炉の奥に穴ってどういうことよ」


「これは本物の暖炉じゃねーよ。
電気ストーブさ。
赤外線の電気つけて、暖炉風に見せてるんだろ。
金持ちのすることは、よく分かんねーよな。

でさ、その電気の配線用に穴開いてるんだよ。
配線用にしてはでかいから、タマミさんも通れるんじゃねーか」


暖炉は火を使うもの、という先入観があったからだろうか。暖炉の奥まで捜していなかったことに、今さらながら気がついた。


「へー、こんなデブ猫でもそんな細いとこ通れるんだ」


改め口に顔をつっこんだまま、華子さんは暴言を言い放った。


「あっ……タマミさん。
待ってーー
あーあ、もっと奥行っちゃった」


プライドの高いタマミさんは、華子さんの無礼な発言に我慢ならなかったのだろう。ますます、捕獲が難しくなったことが、華子さんの言葉で分かった。

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