カリス姫の夏
タマミ家のお屋敷には平穏な時間が戻り、食事を終えたタマミさんがキャットタワーのねぐらで毛づくろいをしている。
本日、メインであり、唯一でもあった仕事は終了した。2人はほっと胸をなでおろす。
きっと、華子さんは飼い主に「何もトラブルありませんでした」とツラーと言ってのけるのだろう。その神経の図太さこそ、派遣ナースには必要不可欠なのかもしれない。
華子さんと私はふわふわの革張りソファーを満喫しようと深く腰掛け、エアコンの冷風を全身で受け止めた。冷やされていく身体に、脳細胞が満足しているのを感じる。無人島に何か一つ持って行けるとしたら、第一の選択はスマホ。第二選択はエアコンだと、強く心に誓った。
そんな私に、華子さんがふと思い出したように尋ねた。
「そういえばさ、子リス。
あんたの友達、あの背の高い男の子。
あの子は先に帰ったのかい?」
華子さんの言葉が一瞬、理解できず「ん?」と首を傾げた。脳細胞は本調子ではなかったようだ。
あれ?
藍人くん?
藍人くんは?
藍人くん……は?
「ああああぁぁぁーーー!!!」