カリス姫の夏

「藍人くん……
まだ、捜してる?よね。
タマミさん、見つかったこと知らないもんね」


「まったく、あんたには捜してもらって悪いなとか感謝の気持ちとかないのかね」


華子さんに言われたくないと反論する余裕もなく、あたふたとスマホで電話をかけた。しかし、藍人くんは捜索に夢中になっているのか『ただいま電話に出られません』の女性アナウンスが流れる。


「どうしよう。
藍人くん、電話出ない」


自己嫌悪に押しつぶされそうになり、私の声は揺らぐ。

華子さんは眉間にシワを寄せ、珍しく寛大な言葉を言った。


「子リス、ここはもういい。
あと、30分で飼い主も帰ってくるし。
あの子、この辺りにいるんだろうから捜しといで。
で、そのまま帰っていいよ。
バイト代は次会った時、渡すね」


華子さんの言葉を最後まで待てず、私は「お疲れさま」と短く言うとポシェットを掴み、家から飛び出た。
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