カリス姫の夏
頭を冷やせと、言っているのだろう。天からは雨粒がポツリポツリ落ち始めた。けれども、そんなものでは私の心は冷静になれない。
とことんまで自分を卑(イヤ)しめたい感情に襲われ、私は醜く薄笑いを浮かべた。
「分かってるの。
どうせ、藍人くんなんて、ただのカリス姫ヲタなんでしょ。
いいのよ。
うん、マジうれしいよ。
カリス姫応援してくれて。
カリス姫の動画見て、ばんばん再生数増やしてよ。
ツイッターフォローしてリプ飛ばしてよ。
ブログで『いいね』どんどん押しちゃって。
そうしてくれたら、ネットの私は大満足だから。
これからも、バシバシ ネットで絡んでね」
夕立は強さを増す。痛いほどの雨足が私達を刺す。
藍人くんを見上げる顔は雨粒に濡れたが、それとは違う水滴が私の中から溢れ、頬を濡らした。
そのことに藍人くんも気づいたのか、彼の表情は悲しみを帯びる。
「でもね、藍人くん。
リアルの私の前には現れないで。
ネットの私と、リアルの私は別物なの。
カリス姫と私を重ね合わせて、勝手に幻想抱くのはやめてよ。
マジ、迷惑だから。
カンベンして欲しい。
リアルの私はほっといて!」
汚い言葉の羅列に自分自身をがんじがらめにした私は、心からの叫びで終止符を打った。
「私のリアルに、土足で踏み込まないでよ!!」