カリス姫の夏
「分かりません。
分からないけど、複数のツイッターやブログに莉栖花さんの……
いや、カリス姫の写真だってこの写真が公開されてて。
なんかよく分かんないんですけど、ネット上で話題になってて……
ほら、このツイッターでも……」
困惑した藍人くんは、今自分が持つ情報をかき集め私に見せてくれた。藍人くんだって、動揺しているんだ。それは分かっていながら、誰かに責任を押しつけたくて、私の視線は彼を攻撃する。
数枚の写真は、どこで取られたものか簡単に分かった。タマミさんの家の中を窓ガラス越しに撮影した物から、大胆にも窓ガラスを開けて中を取ったものまである。あの日、タマミさんの家の窓が開けたのは、この写真のカメラマンだったのだろう。
そのツイッターのハンドルネームに見覚えは無いし、どの記憶の棚を開いても私との接点は見つからない。ただ、ネットの住人は一人でいくつもの顔を持ち、それぞれを結び付けるのが難しい事はネットに精通する私が一番よく知っている。
だとしても、複数のツイッターって………
「でもさ、カリス姫なんて全然注目されてなかったし、さして知られてもいないんだよ。
私に興味持つ理由なんて、ないじゃない」
「それが……ここにきて……」
と言うと、私の手からスマホを取り戻し藍人くんは再びクリックした。何度も指先で画面を小刻みに押す。焦りからか反応の悪い画面に、いら立っているのが伝わる。
「カリス姫の再生数、劇的に増えてるんです!」
藍人くんのスマホがカリス姫の動画に飛ぶと、そこにはちょっとした有名人と変わらないほどの再生数が。
それはある意味、私の望んでいたことだ。ネットを自己表現の場としている人間にとって、最高の喜びのはずだった。
けれども、その矛先がリアルの自分に向けられた途端、顔の無い無数の人間に襲われるような恐怖を感じた。