カリス姫の夏
病院内で携帯電話が使えるエリアは、エレベーターのすぐ前にあった。
ガラスで仕切られたその場所に入ると、私はすぐさまスマホの住所録を開いた。
長めのコール。そして、電話は必要なければ極力関わりたくない相手につながった。
「あっ、華子さんですか?」
スマホから聞こえるガラガラ声さえも、今日は待ち遠しい。
「なんだい、子リス。
なんか用なの?
納税もせず社会になにひとつ有益なことをしていないというのに、大きな顔で外をのそばっている厚顔無恥な高校生と違って、あたしは忙しいんですけどね」
いつも通り、電話の相手はこちらの用件は無視し、自分の都合だけ押し付けた。けれども、華子さんのそんな毒舌も、今の私は余裕で対応できる。
「まあ、そんなに長いこと文句言えるんなら時間あるんですね。
実はね、華子さんに折り言ってお願いがあって。
明日なんですけど、華子さんなんの仕事入ってるんですか?」
「なに?!
明日?
明日は健康診断。
朝から午後2時まで休みなく採血しまくるのさ。
あのね、耳が悪いみたいだからもう一回言うけどね、あたしはあんた達みたいに……」