カリス姫の夏
「持ってるけど……
えっ⁈この子DМ(糖尿病)なの⁈
そんなこと情報にはなにも……」


救急車の手配を終えた華子さんは、携帯電話を手に持ったまま一瞬戸惑った。それでも、言いたい言葉は全て飲みこみチッと舌打ちすると、すぐさまカバンから小さな合皮のバックを取り出した。


ふと、気がつくと私達の周りには人だかりができている。複数の好奇の目に取り囲まれている。緊急事態を察知し、係員が担架(たんか)を担いで駆け付けた。


「BS(血糖値)72……
どういうこと?
低血糖……低血糖おこしてる……」


ポータブルの機械に表示された数値を読む華子さんの表情は、戸惑いとも怒りとも判別つかない。けれども、それを聞いた藍人くんは冷静に言ってのけた。


「看護師さん。
ブドウ糖!!
ブドウ糖持ってませんか?」


「持ってない!!」


苛立ちをこめ言い捨てると、華子さんはすっくと立ち上がり、人だからに向かって大声で叫んだ。


「誰か角砂糖持ってませんか?
アメ……アメでもいいです」


野次馬根性で取り囲んでいた人々は、カバンの中を探り出した。緊急事態に、少しでも力になりたいと願う善意を感じる。数人が小袋に入ったアメを掲げ、手を振った。
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